イニシャルコストとランニングコストの話

躯体の考察

 家を建てるに当たって、デザインや動線は重要です。しかしそれと同時に重要なのが躯体(家本体)の構造や建築材料の性能です。なぜならそれが居住する上での快適性や、修繕費も含めたランニングコストに大きく関与するからです。

 例えば代表的な所では、断熱材などが分かりやすいのではないでしょうか?断熱材の種類は多岐に渡りますが、大別すると「天然素材」「発泡プラスチック」「繊維」の3種類が主流です。その中のいくつかを取り上げて見ましょう。

 まず「天然素材」のグループには「羊毛」が有ります。商品名では「ウールブレス」辺りがメジャーでしょうか。これは難燃性・調湿性・撥水性を持っており性能的には非常に良いモノです。しかし高いです。いわゆる建売住宅などのイニシャルコストを徹底して下げた住宅にはまず採用されません。一番普及している繊維系グラスウールの2〜3倍します。なので商品の価値は非常に高いですが、普及率が低く施工実績の少ない業者が多いのが問題点かと思います。

 次に「発泡プラスチック」ですが、「ポリスチレンフォーム」や「ウレタンフォーム」が代表格でしょう。イメージとしてはそれぞれ発泡スチロールと高反発クッションの中身みたいな外観です。ウレタンには吹付工法もあります、泡を吹き付けるアレです。商品名では「スタイロフォーム」「アキレスボード」や「アイシネン」などが採用実績が多い様ですね。これらも熱伝導率や透湿抵抗の面でグラスウールよりも高評価です。断熱性能は高いですがこちらも価格は2〜3倍します。

 さて「繊維」はどうでしょう?「グラスウール」「ロックウール」等鉱物系が主流で、断熱材の国内シェアではグラスウールがダントツです。商品名では「マットエース」「アクリア」等。これらの商品ははっきり言えば断熱性能は他と比較して低いです。水(湿気)に触れると機能が低下するという特徴もあり、さらに年数が経てば下方向に下がり断熱性能が著しく低下しがちです。価格の低さを考えれば致し方ありませんが・・・。グラスウールを選択するのであれば多少値段は上がりますが、最低でも熱伝導率が0.038以下の高密度の商品を選んだ方が無難でしょう。

施工技術

 これらの断熱材、素材自体の性能も大切ですが施工技術も同じくらい重要です。

 結局は壁内結露をできるだけ発生させない事が重要で、その為には「壁内での温度差」が無い様に、「断熱材の均一化」や「隙間ない施工」など丁寧な仕事が必須です。断熱性能が落ちる素材でも完璧な施工で100%の性能を引き出せるなら、断熱性能の高い素材で未熟な施工をされるよりは確実に良いです。つまり断熱性能の半分は施工業者の腕にかかってくるということなのです。

 ですから「どんな断熱材でも対応しますよ」という所よりは「うちはウールブレスを専門にやってます」とか「吹付発泡ウレタンを専門の業者と提携して施工してます」とか特化した業者を選んだ方が失敗は少ないでしょう。もしくは断熱材と木枠をパネル化した「FP」という選択も有ります。これは木材で規格化されたフレームを作り両面をクラフト紙で蓋をし、そこに発泡ウレタンを注入したFPパネルを壁や床下・天井裏などに施工し魔法瓶の様に家を包む工法で、施工技術に左右されにくい点でおすすめです。ちなみにこのパネルは標準で50年無結露保証が付いています。

 

 メリット

  断熱性能が高いと何が良いのか?室内温度をコントロールし易く、年間の冷暖房費ははっきりと差が出ます。また壁内結露は下地材や木材を腐食させカビの温床にもなります。日本の一般木造住宅の寿命は25年〜30年と言われてきました。その多くが壁内結露に対して無対策であったというのが現実です。業者選びの際は「壁内結露対策はどうされてますか?」と質問してみるのも良いでしょう。その答えを聞いた日の夜にでも、インターネットでその対策が現実にはどうなのか調べてみると良いと思います。

 ついでに外壁の話もしておきましょう。外壁には「窯業サイディング」「金属サイディング」「ALC」「タイル」「塗り壁」「羽目板」などが有ります。シェア8割近いのが窯業サイディングです。これもイニシャルコストを重視する方が多いからなのですが・・・。

 サイディングのランニングコストはどうなのでしょう?ほとんどの建売住宅はコレですね。塗装の種類にもよりますが普通10〜15年で塗り替えが必要です。一番高い塗装でも20年です。

 ALCは軽量気泡コンクリートの事で、ヘーベルハウスの外壁と言えば想像できるかと思います。高性能ですが防水性が弱く表面の塗装グレードが性能を大きく左右します。その為、塗り替え頻度はサイディングと変わりません。

 タイルは見た目の高級感や塗り替えの必要が無いので通常ランニングコストは低いです。ただし外壁が2重構造となる為、初期費用が高い事とタイルの後ろにある外壁のコーキングに問題が発生した場合に高額な修繕費が発生するケースが有ります。

 塗り壁は左官の手作業によるセメントモルタルや漆喰の塗装です。これは左官の腕に大きく左右されます。セメントモルタルはサイディング同様に塗り替えが必要です。

 蛇足ですが・・・塗り壁のオススメに「そとん壁」という商品が有ります。メンテナンスは不要、仮に通常の塗り壁の様にクラックが発生しても内部に水が侵入しません。原料は学校で習った記憶があるかと思いますが、九州のシラス台地にあるシラスというモノです。これは火砕流により一気に堆積したマグマが、岩石になる前に粉末状になったもので成分はマグマとほぼ同じです。その微粒子が多孔構造を持ち、除湿剤の主原料である珪酸と、脱臭効果のあるアルミナが成分の8割を占めています。内壁用の商品も有ります。ただし初期費用は高めです。

 羽目板は味があって良いですね。原材料費も安く、サイディングと同程度のイニシャルコストです。保護剤を定期的に塗布すれば30年程度は持ちます。その後、張り替えとなります。住宅街では防火の観点で使用できない地域も有りますので注意が必要。

 

イニシャル?ランニング?

 例として「断熱材」と「外壁材」を取り上げましたが、これらの多くは10年〜20年でトータルコスト(初期費用+メンテナンス費+冷暖房費など)は逆転します。

 つまり最初に耐久性の高い燃費の良い車を買って長く乗るのか、耐久性の低い燃費の悪い車を修理しながら乗り続けるのかという感じでしょうか。家を立てる際に資金の問題は必ず発生して、希望の中から色々削減する作業が出てきます。そこで室内を削りたく無いあまりに、こういった外壁や断熱のランクを下げてしまう方が結構いらっしゃいます。

 内装を弄るのはそれ程掛かりませんが、外壁や壁内を後から弄るとなるとかなり多大な費用が発生します。その辺りも含めて考えた方が良いでしょう。

 一般に35年ローンを組む方が多いと思いますが、その途中に住むに堪え難い状態になるのは悲劇なので、ローン終了時までに掛かる建設費とメンテナンス費を、ケース毎でザックリ出してみた方が良いと思います。10年後に外壁と屋根のガルバリウム塗り替えが必要になったとなれば、家の大きさにも依りますが100万前後は掛かるケースが多いです。

 それに比べて部屋のクロス張り替えなどの内装は、全然安いのです。大手ハウスメーカーの建て売りや、多くの施主の方がイニシャルコスト重視で家を建てる為、良い材料の価格がなかなか下がらず悪循環になっているのでは無いでしょうか?例えば電気自動車はイニシャルコストが高いですが、ランニングコストは極めて低いです。ですが販売台数の伸びに合わせてイニシャルコストは下がっています。

 日産リーフの最新型新車価格は315万円からで補助金も40万円〜出るのかな。エンジンではなくモーターなのでオイル交換等のメンテナンスも不要で車検も安いです。勿論電気代も毎日通勤で使っても、ほとんどの方が月に1000円〜2000円程度で収まるでしょう。普通のガソリン車と比較すると、年間1万キロ程度走行する場合、車検やガソリン代、オイル交換等も含めたランニングコストでは年間20万円以上の差になりそうです。

 どちらが良いかは一人一人違うと思います。自分のライフスタイルや居住エリア、嗜好性も大きく影響します。車は多くの場合10年前後で買い換える人が多いかと思います。ただ家とはこの先数十年共に過ごすのです。今の好みが40歳になった時も変わらないでしょうか?60歳では?

こう考えてみませんか

 家を買うのは、車を買うのと少しだけ似ています。

 あなたは日本車やドイツ車に安全安心や高機能、高品質、故障が少ない、長持ちする、燃費が良いなどのイメージを持ちませんか?逆にアメ車や中国車、インド車などはどうでしょう?燃費が悪い、故障が多い、そんなイメージを抱きませんか?それでも車であれば下取りに出して買い換える事も容易なので選択を誤ってもリカバリーできますが、家の場合はそう簡単にはいきません。だからこそ初期費用の差にばかり囚われずに、住み始めてから発生する費用の差や室内の快適性の差も十分に考えましょう。最低15年程度でランニングコストにどれだけの差が出るのかを、あなたが検討している仕様で実際に家を建てた方のブログなどを探して、集めた情報で見積もってみると良いかと思います。

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